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東京高等裁判所 昭和57年(ネ)290号 判決 1982年10月27日

控訴人 株式会社アラスカ興業

被控訴人 日魯漁業株式会社

主文

原判決を取消す。

被控訴人は、控訴人に対し、原判決別紙物件目録記載の建物について京都地方法務局昭和五〇年三月四日受付第六四一一号抵当権設定登記の抹消登記手続をせよ。

訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  控訴人

主文同旨の判決

二  被控訴人

控訴棄却の判決

第二当事者の主張及び証拠関係

次のとおり付加し、改めるほか、原判決事実摘示と同一であるからこれを引用する。

1  原判決三枚目裏七行目の「(三)の事実中」以下同末行までを「(三)の事実中アラスカ商会が被控訴人のために本件建物につき抵当権設定の仮登記をする義務を負担したことは認めるが、その余は否認する。」と改める。

2  同四枚目表初行に「同2の事実は、被担保債権の内容を除いて認める。」とあるのを「同2の事実中、本件建物につき、本件抵当権設定登記手続がされたことは認めるが、その余は否認する。」と、同六行目に「昭和五〇年三月初め」とあるのを「昭和五〇年二月」とそれぞれ改める。

3  同八枚目表初行の末尾に「(但し、第二号証及び第四号証は写)」を、同七行目の末尾に「(但し、第三、第四号証及び第八号証は写)」をそれぞれ加える。

理由

一  本件建物は控訴人の所有に属するところ、本件建物につき被控訴人を権利者とする本件抵当権設定登記が経由されていることは当事者間に争いがない。

二  昭和四九年一一月三〇日、被控訴人、朝日屋商店及びアラスカ商会の三者間の契約により、朝日屋商店において、アラスカ商会が被控訴人に対し負担している子持コンブ買掛金の一部である金八六一万四六〇〇円を引受ける旨の合意が成立したことは当事者間に争いがないところ、原本の存在及び成立に争いがない甲第二号証及び乙第三号証、成立に争いがない甲第三号証及び乙第一、第二号証、原審証人新井國夫の証言及びこれにより真正に成立したものと認められる乙第六号証及び同じく原本の存在ならびに成立の認められる同第八号証を総合すると、(1) 右同日、右三者間の合意に基づき、朝日屋商店は、右引受債務につき、金額を金九〇〇万円とし、これを被控訴人に対する借受金債務とする旨の本件準消費貸借契約を被控訴人との間に締結し、アラスカ商会は、被控訴人に対し、右借受金債務を担保するため本件建物に抵当権を設定する義務を負担したこと、(2) その後、控訴人は、アラスカ商会の要請を受けて、被控訴人との間に、本件準消費貸借契約に基づく借受金債務を担保するため、本件建物につき抵当権を設定する旨の契約を締結したこと、以上の事実が認められ、右認定を左右するに足りる証拠はない。

すなわち被控訴人主張の抗弁事実はすべてこれを認めることができる。

三  消滅時効の再抗弁について判断する。

控訴人、アラスカ商会及び朝日屋商店が控訴人主張の業務を行う株式会社であることは当事者間に争いがない。

ところで、控訴人は、消滅時効につき、一次的に本件準消費貸借契約上の債権が期限の定めのないものとして右契約成立と同時に弁済期にあり、右契約の成立時点である昭和四九年一一月三〇日から、二次的に猶予された弁済期である昭和五〇年三月一五日から、それぞれその進行が開始すると主張しているものと解されるところ、右一次的主張は被控訴人においてこれを認めているから、本件準消費貸借契約上の債権の消滅時効の起算点が昭和四九年一一月三〇日であることは当事者間に争いがないこととなり、したがつて、商法五二二条、五〇三条、五二条により、右債権の消滅時効の期間は昭和五四年一一月三〇日までである。

四  そこで再々抗弁について判断する。控訴人が被控訴人に対し、昭和五四年一一月六日ころ、被控訴人主張の内容証明郵便(乙第五号証)を送付し、そのころ被控訴人に到達したことは当事者間に争いがないところ、被控訴人は、控訴人が右申込をしたことにより消滅時効の援用権を喪失した旨主張するが、被控訴人主張の右申込は、消滅時効期間の経過前にされたことが明らかであるから、右申込によつておよそ消滅時効の援用権が喪失されたと解する余地はなく、右主張はそれ自体失当であるが、被控訴人は、右申込によつて時効の中断事由である承認があつたとの主張をしているものとしても、右主張は、以下述べるとおり失当である。

すなわち、前記内容証明郵便による控訴人の被控訴人に対する代位弁済の申込が、朝日屋商店の被控訴人に対する債務の存在を論理的前提とするものであることはいうまでもないが、元来債権債務の存否は、債権者と債務者のみがこれを知つているものであり、債権者でも債務者でもない物上保証人は、債務の承認をなすべき立場にないものであるから、右代位弁済の申込のうちに時効中断事由たる承認と評価すべき債務承認の通知が包含されていると解することは相当でないのみならず、成立に争いがない乙第五号証によれば、右代位弁済の申込は、承諾の期間を申込の到達後一〇日以内と定めてなされたものであると認められるところ、承諾期間の定めのある申込は、期間内に承諾の通知がなされないときは効力を失う(民法五二一条)のであつて、右承諾のなされた場合はともかくとしてこれに対する承諾が期間内になされたことを認めるべき資料の存在しない本件において、そのような浮動的な効力を有するに過ぎない申込をしたからといつて、控訴人が時効中断事由たる債務承認をなしたと評価することは相当でないというべきである。

以上のとおり、再々抗弁は失当であつて、本件抵当権の被担保債権である本件準消費貸借契約に基づく被控訴人の朝日屋商店に対する債権は、物上保証人たる控訴人の消滅時効の援用により、控訴人に対する関係で消滅し、したがつてまた、本件抵当権もこれにより消滅したものというべきである。

五  それ故、控訴人の本訴請求は、その余の点について判断するまでもなく理由があるところ、これを棄却した原判決は不当であるからこれを取消し、控訴人の請求を認容することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法九六条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 石川義夫 寺澤光子 寒竹剛)

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